東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)273号 判決 1967年2月22日
原告(脱退) 鶴岡勝
右訴訟代理人弁護士 竹上英夫
同 梅沢秀次
被告 株式会社正喜商会
右訴訟代理人弁護士 小林宏也
参加人 中嶋雋吉
右訴訟代理人弁護士 竹上半三郎
主文
被告は、参加人に対し金四、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四〇年二月七日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
参加人訴訟代理人は、主文第一、二項同趣旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として
一、参加人は、左記約束手形(以下本件約束手形という)を所持している。
金額 金四、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和三七年三月二四日、支払地 東京都中央区、支払場所 株式会社千葉銀行東京支店、振出地 東京都中央区、振出日 昭和三七年一月二四日、振出人 株式会社正喜商会(本件被告)、同 片山哲雄、受取人兼第一裏書人 株式会社中嶋ビル、第一被裏書人兼第二裏書人 鶴岡勝、第二被裏書人 中嶋吉(本件参加人)
二、本件約束手形については、参加人の前者である鶴岡勝が被告会社に対して、本件約束手形金とこれに対する訴状送達の日の翌日(右訴状は昭和四〇年二月六日に送達された)から商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める訴(昭和四〇年(手ワ)第二七三号約束手形金請求事件)を提起していたものであるところ、参加人は、右訴訟の係属中である昭和四一年七月二九日、原告から本件約束手形の裏書譲渡を受けたものである。と述べ、
被告会社の抗弁事実に対し、
一、本件約束手形が被告において主張するように被告が訴外森脇将光ら宛に振出し、訴外株式会社中嶋ビルがこれを取得するにいたった本件原始手形の書替手形であることは認めるが、本件原始手形の手形上の権利が消滅した旨および訴外株式会社中嶋ビル、鶴岡勝(本件原告)が害意の取得者であるとの事実は否認する。
二、本件原始手形を訴外株式会社中嶋ビルにおいて取得したいきさつは次のとおりである。すなわち、訴外片山哲雄は、昭和三二年六、七月頃被告が主張するように、訴外中島金属鉱業株式会社の代表取締役に就任したのであるが、同会社の資金難を打開する策として、同年九月五日訴外森脇将光から金二三、〇〇〇、〇〇〇円を日歩金四〇銭の利息を支払う約定で借受けたのをはじめとして、昭和三三年五月末日までに同人から合計金六二、〇〇〇、〇〇〇円を借受けた、そのため同訴外会社は、同日までに元金二五、〇〇〇、〇〇〇円、利息金一九、八六〇、〇〇〇円余を支払ったのにもかかわらず、なお同日現在において元利合計六五、五六〇、〇〇〇円余の貸金債務を負担する結果となっていたのである。本件原始手形は、このようにして訴外片山哲雄が訴外会社のために訴外森脇将光から借受けた元本のうち金四、〇〇〇、〇〇〇円の支払方法ないし担保として、被告および訴外片山哲雄から訴外森脇将光宛振出されていたものである。ところで訴外中島金属鉱業株式会社は、前記のように多額の借入金債務を負担した結果、経営難に陥入ったので、その収拾策を訴外金子和助に依頼し、その結果、同訴外人は被告主張のように訴外株式会社中嶋ビルを設立し、昭和三三年六月一一日、訴外中島金属鉱業会社が訴外森脇将光に対して負担する債務を金六七、〇〇〇、〇〇〇円と定め、右元本の弁済期を同年一一月末日とし、利息を月八分とする約定で右金員を訴外森脇将光に対して支払うことを約し、同年一一月末日までに元利合計九四、四〇〇、〇〇〇円余を完済するにいたったのである。ところが、訴外金子和助は、右債務の支払資金調達のために別途訴外森脇将光から金三六、〇〇〇、〇〇〇円を借受け(その支払方法ないし担保として金二九、〇〇〇、〇〇〇円については訴外株式会社中嶋ビル振出の約束手形が、金七、〇〇〇、〇〇〇円については訴外中島産業株式会社振出の約束手形が訴外森脇将光に交付されていた)ざるを余儀なくされたうえ、昭和三三年九月二日右借入金の利子支払に際して、訴外森脇将光から被告と訴外片山哲雄振出の額面金四、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形一通を買取って欲しい旨の依頼にも応じざるを得ず、右約束手形金の元利合計金四、九四四、〇〇〇円を支払って訴外森脇将光から右約束手形を取得したのである。この約束手形が本件原始手形である。もともと本件原始手形は前記のように訴外中島金属鉱業株式会社の債務に属するものであり、これを訴外金子和助において前記の約定により弁済中であったのであるから、同訴外人が右弁済とは別途に本件原始手形金を支払うべき義務はなかったのであるが、同訴外人は当時それに気付かず、結局訴外森脇将光の言うなりに本件原始手形金を二重に支払った結果になってしまったのである。
三、訴外中嶋雋吉、同中島金属鉱業株式会社、同中嶋産業株式会社、同中嶋合名株式会社、同株式会社中嶋ビル、同中嶋亨、同金子和助と、訴外森脇将光、同将光商事株式会社、同日輪株式会社との間に昭和三四年八月二七日成立した示談契約は、第二項で述べたように昭和三二年九月五日から昭和三三年一一月末日までに訴外中嶋金属鉱業株式会社、訴外株式会社中嶋ビルおよび訴外金子和助らが訴外森脇将光に対して支払った訴外中嶋金属鉱業株式会社の債務の元利金のうち、出資の受入、預り金及び金利等の取締に関する法律所定の最高利率日歩金三〇銭を超える制限超過利息が金五二、〇〇〇、〇〇〇円余に達していたところから、訴外中嶋雋吉ら七名が訴外森脇将光らから訴外株式会社中嶋ビル振出の額面金一、八〇〇、〇〇〇円の小切手一枚額面金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形二枚、同金五、〇〇〇、〇〇〇円、同金四、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形各一枚、訴外中嶋産業株式会社振出の額面金七、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形一枚ならびに現金五、〇〇〇、〇〇〇円の返還を受けることによって、前記契約当事者間の債権債務の一切を消滅させることを、その内容としたものであり、訴外森脇将光らは右の限度において既に受領した制限超過利息を返還することを約したのであるけれども、被告らが主張するように訴外金子和助らが本件原始手形金を訴外森脇将光から返還を受けたような事実はない。
四、被告会社、訴外片山哲雄が訴外森脇将光に対しその主張するように利息制限法違反の制限超過利息を支払ったこと、訴外株式会社中嶋ビル、鶴岡勝がこのような事情を知悉した害意の取得者であるとの点は否認する。
と述べた。
被告訴訟代理人は、「参加人の請求を棄却する。訴訟費用は参加人の負担とする」との判決を求め、答弁および抗弁として
一、、参加人の請求原因事実は認める。
二、本件約束手形は、被告ならびに訴外片山哲雄が、昭和三二年三月頃、訴外将光商事株式会社から金四、〇〇〇、〇〇〇円を借受けるに際して、右貸金の支払のために振出した同金額の約束手形(以下単に本件原始手形という)が、同訴外会社から訴外金子和助を経て訴外中嶋ビル株式会社へ譲渡されたため、同会社と被告会社および訴外片山哲雄間で右の原始手形を逐次書替えて来た最後の書替手形であるところ、右の原始手形についてはつぎのようないきさつが存するのである。
すなわち、訴外片山哲雄は昭和三二年六月頃、参加人の依頼によって、同人が経営にかかる訴外中嶋金属鉱業株式会社の代表取締役に就任し、爾後同会社の経営に従事していたのであるが、経営難のために同会社の事業資金を訴外森脇将光から約金四〇、〇〇〇、〇〇〇円を日歩金二七銭の約定で借受けるなど高利の資金を借入れざるを余儀なくされ、安定した経営を行うことが不可能になるにいたったので、昭和三三年五月末日頃、右会社の代表取締役を訴外金子和助と交替するにいたったのである。そこで訴外金子和助は、訴外中嶋金属鉱業株式会社同様参加人の経営にかかる訴外中嶋産業株式会社が管理していた東京都中央区銀座西二丁目三番地中嶋ビルの四階ないし九階を管理することを目的とする株式会社中嶋ビルを新設し、同会社において前記訴外中嶋金属鉱業株式会社の借入金債務を弁済すべく、訴外森脇将光との間に弁済額を金六〇、〇〇〇、〇〇〇円とし、利息を一カ月八分として同年八月末日まで完済する旨を約したのである。ところが、訴外金子和助は、右の期日までに返済資金の調達ができず、止むなく訴外森脇将光ないし訴外将光商事株式会社から金融を受けて前記返済資金を調達するを余儀なくされ、同年一一月末日頃漸く前示六〇、〇〇〇、〇〇〇円の元利を弁済したものの、訴外金子和助はその際、すでに訴外森脇将光ないし訴外将光商事株式会社に対し約金四二、〇〇〇、〇〇〇円余の借入金債務を負担する結果となっていたものである。しかも、訴外金子和助は、右の訴外森脇将光ないし訴外将光商事株式会社との取引に際して同訴外人らから金融を受けざるを得ない立場から同訴外人らの慫慂するままに、訴外中嶋金属鉱業株式会社との債務とは関係のない本件原始手形金までも被告会社ないし訴外片山哲雄にかわってこれを支払い、ために本件原始手形は昭和三三年一二月頃、訴外金子和助に交付されるにいたったものである。
ところが、昭和三四年頃、訴外森脇将光が出資の受入、預り金及び金利等の取締に関する法律違反に関する刑事被告事件に連座したのを奇貨として、同訴外人と訴外金子和助間に、同訴外人が訴外森脇将光、同将光商事株式会社および訴外森脇将光の関係する訴外日輪商事株式会社に対して負担している貸金債務ならびに従前において支払った出資の受入、預り金及び金利等の取締に関する法律違反の制限超過利息の返還に関する示談契約が成立し、訴外金子和助は、訴外森脇将光らから、前記借入金・支払方法として振出していた約束手形額面金四二、八〇〇、〇〇〇円の返還を受けるとともに、前記のように本件原始手形について支払わされた金員を含めて現金五、〇〇〇、〇〇〇円を訴外森脇将光らから返還を受けるにいたったのである。
(一) 以上のいきさつにより、訴外金子和助は、訴外森脇将光ないし訴外将光商事株式会社から本件原始手形を取得するに際して支払った対価を、その後において同訴外人らから返還を受けたこにとより、本件原始手形を同訴外人らに返還すべき義務を負担するにいたり、訴外金子和助の本件原始手形上の権利は消滅するにいたったものである。したがってその後において訴外金子和助から本件原始手形を取得した訴外株式会社中嶋ビルにおいても右手形上の権利を取得するに由なかったものであり、本件原始手形の書替手形を同訴外会社から取得した鶴岡勝(本件原告)もなんら本件約束手形上の権利を取得するものではない。
(二) また、訴外金子和助が本件原始手形上の権利を失ったことを訴外株式会社中嶋ビル等に対し被告において対抗し得ないとしても訴外株式会社中嶋ビルは、前記のように訴外金子和助が本件原始手形の対価の返還を受けたことにより、本件原始手形上の権利を失っていることを知悉しながら、右約束手形を取得し、鶴岡勝(本件原告)はそのような事情を知りながら本件約束手形を取得したものでいずれも害意の取得者である。
三、仮に右の主張が認められないとしても、本件原始手形は、被告および訴外片山哲雄が、訴外森脇将光から金四、〇〇〇、〇〇〇円を利息月一割の約定で借受けた貸金債務の担保として同訴外人に交付したものであるところ、被告らは、右貸金の利息として昭和三二年一月迄に金九、六〇〇、〇〇〇円を同訴外人に支払ったのである。ところで右期間内の前記貸金元本に対する利息制限法所定の利息は金一、二〇〇、〇〇〇円に過ぎないのであるから、被告らは金八、四〇〇、〇〇〇円の制限超過利息を支払ったものであり、右制限超過利息が、前記貸金元本に法定充当されることにより、当時本件原始手形の原因関係たる貸金債務は消滅していたものである。訴外森脇将光から本件原始手形を取得した訴外金子和助、訴外株式会社中嶋ビルおよび鶴岡勝(本件原告)は右のように本件原始手形の原因関係上の債務が消滅したことを知悉していたものであるから、鶴岡勝は本件約束手形の害意の取得者というべきである。
四、叙上のように被告会社は鶴岡勝に対して本件約束手形金を支払うべき義務を負わないものであるから、本件約束手形の期限後取得者である参加人に対して、本件約束手形金を支払うべき義務を負う筈がない。
と述べた。
証拠として、<省略>
理由
一、参加人の請求原因事実は、被告において認めるところである。
二、そこで、被告の抗弁事実について判断する。
(一) 本件約束手形が、被告会社と訴外片山哲雄が訴外森脇将光または同人の経営する訴外将光商事株式会社(そのいずれであるかはともかくとして)から金四、〇〇〇、〇〇〇円を借受けるについて、その支払方法ないし担保として振出し、その後同訴外人らから訴外株式会社中嶋ビルが取得するにいたった本件原始手形の書替手形であることは当事者間に争いがない。
(二) ところで、訴外株式会社中嶋ビルの本件原始手形を取得するにいたったいきさつを調べて見るに、<省略>次のような事実が認められる。すなわち、参加人の経営にかかる訴外中嶋金属鉱業株式会社は、昭和三二年頃訴外片山哲雄が代表取締役に就任した(この事実は当事者間に争いがない)のち、同年九月五日頃、訴外森脇将光から金二三、〇〇、〇〇〇〇円を利息月八分の約定で借受けたのをはじめとして、七回にわたって同訴外人から合計金六二、〇〇〇、〇〇〇円を借受けた結果、昭和三三年六月一〇日までに元金二五、〇〇〇、〇〇〇円、利子一九、八六四、七七七円を支払ったのにもかかわらず、なお元利合計金六五、五六〇、四二五円の貸金債務を負担するにいたっていた。そこで参加人らの要請により、訴外金子和助が、東京都中央区銀座西二丁目三番地所在中嶋ビル(当時一ないし三階は訴外中島合名会社、四ないし九階は訴外中嶋産業株式会社の所有であった)の経営管理を目的とする訴外株式会社中嶋ビルを設立したうえ、同会社において前示訴外中嶋金属鉱業株式会社の債務を引受けて訴外森脇将光に支払うこととし(この事実は当事者間に争いがない。)、昭和三三年六月一一日、同会社において支払うべき債務総額を金六七、〇〇〇、〇〇〇円とし利息を月八分としてこれを分割払する約定が、同会社と訴外森脇将光との間に成立したことにより、同会社は同年一一月末日までに右債務元金六七、〇〇〇、〇〇〇円および利息金二七、四〇〇、〇〇〇円を完済したのであるが、その支払の過程において、同年九月二日、前示中嶋ビルの賃借人が、貸主たる訴外中嶋合資会社、同中嶋産業株式会社の賃借料取立の権限が両会社から訴外森脇将光と訴外株式会社千葉銀行に二重譲渡されていたとの事情により、昭和三三年一月頃から弁済供託をしていた合計約金一二、五〇〇、〇〇〇円の供託金の還付をめぐって、訴外株式会社中嶋ビルと訴外森脇将光との間に、同訴外会社が右供託金のなかから前示六七、〇〇〇、〇〇〇円に対する九月分の利子金五、三六〇、〇〇〇円を支払うとともに、訴外森脇将光が所持していた本件原始手形金の元利金合計金四、九四〇、〇〇〇円余を支払って本件原始手形を買取ることを条件として、訴外森脇将光において訴外会社が前記供託金の還付を受けることを承諾する旨の合意が成立したことにより、訴外会社は右合意による金員を支払って、訴外森脇将光から本件原始手形を取得するにいたったのである。おおよそ以上の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) ところで、<省略>訴外中嶋金属鉱業株式会社、同中嶋産業株式会社、同中嶋合名会社、同株式会社中嶋ビル、参加人中嶋享および訴外金子和助を一方の当事者とし、訴外森脇将光、同将光商事株式会社、同日輪商事株式会社を他方の当事者として、昭和三四年八月二八日、前示のように訴外中嶋金属鉱業株式会社、訴外株式会社中嶋ビルが訴外森脇将光に対して支払った利息ならびに訴外金子和助ないし訴外株式会社中嶋ビルが、前示のように訴外中嶋金属鉱業株式会社から引受けた金六七、〇〇〇、〇〇〇円の債務の支払資金調達のために訴外日輪商事株式会社から金融を受けた総額金七二、〇〇〇、〇〇〇円に対して支払済みであった利息および手数料名義の金員合計四一、七二八、三〇五円のうちで、「出資の受入預り金及び金利等の取締に関する法律(昭和二九年法第一九五号)」所定の最高利率日歩三〇銭を超えて支払われた制限超過利息と、前示のように訴外中嶋金属鉱業株式会社の債務を訴外株式会社中嶋ビルが引受けるに際して訴外森脇将光に対して支払うことを約した六七、〇〇〇、〇〇〇円から、訴外中嶋金属鉱業株式会社の実際の債務額であった金六五、五六〇、四二五円を差引いた金一、四三九、五七五円とからなる制限超過利息と右差額金合計約五二、〇〇〇、〇〇〇円余の返還に関する示談が行なわれた結果、訴外中嶋金属株式会社らが、訴外森脇将光らから、同人らにおいて所持していた、振出人中嶋産業株式会社、中嶋雋吉、中嶋享、金額七、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和三四年八月三日とする約束手形一通、(一)金額四、〇〇〇、〇〇〇円、満期同年八月三日、(二)金額一〇、〇〇〇、〇〇〇円、満期同年八月三日、(三)金額五、〇〇〇、〇〇〇円、満期同年八月五日、(四)金額一〇、〇〇〇、〇〇〇円、満期同年八月七日とする訴外株式会社中嶋ビル振出の約束手形四通、訴外株式会社中嶋ビル振出の金一、八六五、四三四円の小切手一通および現金五、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けることにより、前示当事者間の債権債務の一切を消滅させる旨の示談契約が成立した(内容の点は別として叙上の当事者間に示談契約が成立したことは当事者間に争いがない)ことを認めることができ、この認定を左右するに足る証拠は存しない。
(四) 被告は、右の示談契約において訴外森脇将光らから交付された約束手形ないし現金のなかに、訴外金子和助ないし訴外株式会社中嶋ビルが本件原始手形を取得するに際して支払った対価の返還に充てる分が含まれていたと主張するけれども、前示示談契約の内容および成立の経過にてらし、叙上のように訴外株式会社中嶋ビルが、訴外中嶋金属鉱業株式会社から引受けた債務の支払とは別途に対価を支払って取得していた、本件原始手形の手形金をも訴外森脇将光らにおいて返還すべき旨の約定が右示談契約の内容に含まれていたものとは認め難く、他に訴外金子和助ないし訴外株式会社中嶋ビルが訴外森脇将光らから本件原始手形金の返還を受けたことを認めるに足る証拠はない。
してみると、訴外金子和助らが本件原始手形金の返還を受けたことを前提とする被告の主張は、その余の判断をまつまでもなく理由なきに帰するというべきものである。
(五) つぎに、被告は、本件原始手形の原因関係たる訴外森脇将光と被告および訴外片山哲雄間の金銭消費貸借において金八、四〇〇、〇〇〇円の制限超過利息を支払ったと主張し、被告会社代表者片山哲雄尋問の結果中には制限超過利息の支払につき右一部主張に符合する供述が存するのであるけれども、既に判示したようないきさつにより本件原始手形を取得した訴外株式会社中嶋ビルならびに右手形の書替手形である本件約束手形を同会社から取得した鶴岡勝(本件原告)が、右の制限超過利息の支払の事情に関する害意の取得者であるとの点は、本件に提出された全証拠をもってしてもこれを認めるに足りないから、被告の抗弁は理由がないといわなければならない。
三、以上被告の抗弁はすべて理由がないから、参加人の請求を正当として認容すべく<以下省略>。